高齢者がむせることは、様々な危険を伴います。正しく対処していくには、まずむせる原因やどのような危険があるのか把握する必要があります。
食事や水分補給は、健康を維持していく上で欠かせないものです。むせてしまうことで食事が苦痛になってしまうと、必要な栄養が取れず健康を維持していくことが困難になる他、食べる楽しみや喜びがなくなり、心への負担も大きくなってしまいます。
高齢者の生活をサポートしていく方は、高齢者が心身ともに健康でいるために、むせる原因やその危険性を正しく把握し、適切な対処をしていく必要があります。
項目ごとの詳しい解説を元に、適切な対処とはどのようなものか、把握していきましょう。
高齢者がむせる原因を把握して対処しよう
専門的な医学用語では食べ物や飲み物を飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といいます。口や喉まわりの筋肉や神経が動くことで食べ物や飲み物を食道に送り込んでおり、その動きはとても複雑とされています。
食べ物や飲み物を飲み込む時は、多くの器官と共に様々な神経や筋肉が動きますが、どこかの段階で神経や筋肉が円滑に動かなくなってしまうと、嚥下障害を引き起こしてしまいます。
高齢者がむせてしまうのは、この嚥下障害が大きな原因となっており、加齢による身体の変化が引き金となっていると考えられます。
例えば、唾液の減少は食べ物を飲み込みづらくしてしまう大きな要因となっています。さらに噛む力が低下すると、飲み込むのに十分な大きさまで噛み砕けていない状態で少量の唾液とともに飲み込んでしまうので、喉に違和感を与えむせてしまいます。
嚥下障害の引き金となる要因は、口腔機能の低下に限らず、反射神経の衰えや筋力の減少にもあります。これらの機能が低下するとタイミングよく飲み込むことができない、反射のタイミングがずれることによって今まで問題なく食べていたものでもむせてしまう、などの問題が発生します。
その他、脳卒中や神経疾患、認知症などの後遺症や症状などでも同じような問題が発生し、薬の副作用などで唾液分泌が減るなどの口腔機能の低下も引き起こし要因は複雑化してしまいます。
また、食欲不振、心身症、ストレス性胃腸炎や胃潰瘍など、精神的な部分から病を引き起こすことで、食べ物や飲み物を飲み込むことが困難になる場合もあります。精神的に活力がある方でも、高齢による機能低下で食事の際むせてしまうことが多くなり、楽しみや喜びを感じていた食事が嫌になるなど嚥下障害が精神力を弱らせてしまうこともあります。
むせる要因となる症状は、個人差があります。高齢者の健康状態を細かく把握していき対処することで嚥下障害防止へとつなげていきましょう。
高齢者がむせる危険性を把握して正しく対処しよう
高齢者がむせることで嚥下障害を引き起こすと様々な危険を伴います。
例えば、食べる楽しみや喜びが低下することで食事の意欲がなくなる、脱水症状、栄養失調を引き起こします。老衰状態に陥ると、医療的な手段で栄養や水分を補給することになり、自分の意思で食事をすることが一切できなくなってしまいます。食事が取れなくなると運動機能も急激に低下し、最悪の場合は寝たきりの状態になってしまいます。
嚥下障害は心身ともに健康状態を悪化させるだけでなく、死へのリスクも高くなってしまいます。
むせることにより食塊が喉に詰まることで気道を閉鎖、呼吸困難など窒息のリスクは非常に高い状態です。
高齢者の食事には柔らかく食べやすい食材を選ぶなどの対処が必要です。例えば、加熱しても身が硬くなりにくい脂ののった魚(マグロ、カレイ、ブリなど)、肉の場合はやや脂身のある薄切り肉、卵は柔らかい炒り卵、大豆製品は絹ごし豆腐やソフト木綿豆腐などを取り入れていくと良いでしょう。
高齢者がむせる危険性は嚥下障害だけでなく、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。
誤嚥性肺炎とは、細菌が付着した食べ物や唾液が肺に入ることで炎症を起こす病です。食堂から胃へ送られるはずの食塊や唾液が、むせることにより違う場所へ流れ込み期間や肺に入ってしまうことがあります。
日本で肺炎は、がん、心疾患の次、3番目に多い死因とされており、肺炎で亡くなる高齢者の7~8割以上が誤嚥性肺炎とされています。
この誤嚥性肺炎は、一概にむせる症状がなければ問題ないというわけではなく、睡眠時に唾液が逆流するなど、むせる症状が見られない場合でも誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうことがあります。
むせる症状がない場合でも、定期的な健康診断を行うなどの対処をしていく必要があります。
嚥下障害による健康状態の悪化を引き起こさないためにも、早めに医療機関に相談するなど早期発見に向けて対処していくことが大切です。
高齢者がむせる初期症状を把握して対処しよう
高齢者の健康状態は一度悪化してしまうと回復までにとても時間がかかってしまいます。むせる症状が深刻化し嚥下障害を引き起こしてしまう前に、対処をしていくことが大切です。
以下の症状が見られる場合は、医療機関に相談するなど対処をする必要があります。
食べると疲れるなど食後に疲労感を訴える
食後に痰が出る、もしくは食事をとるとガラガラ声になってしまう
食べ物が口からこぼれてしまう
食べ物を飲み込んでも食物が口の中に残ってしまう
口の中が汚れやすい、口臭が強いなどの口腔状況の悪化
これらはむせる症状が見られないため見落としてしまいやすいですが、口腔機能の低下、神経や筋肉の動きが鈍っているサインとなります。少しでも症状が見られる場合は、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
さらに以下のような症状が見られる場合は、すでに軽度の嚥下障害を引き起こしている可能いがあるので注意が必要です。
食べるとむせる
食べ物が喉につかえてしまう
食事中はもちろん、食後や夜間に咳が出る
むせるなどの症状がなく、嚥下障害の初期症状も見られない場合でも、体重が減少してしまう時は、食事内容が偏り低栄養状態になっている可能性があります。麺類など柔らかいものや噛まずに食べられるものに偏って食事をしている場合は、食事中の症状では気がつきにくく、気づいた時には免疫力が低下しており健康的な状態を保つことが難しくなっていることがあります。
高齢者の免疫力低下は、大きな病を引き起こす危険な状態です。むせることを懸念して偏った食事をするのではなく、バランスよく健康的な食事をとることを前提として、初期症状を察知するなど対処をしていくことが大切です。
嚥下障害の治療法を知りむせる高齢者の対処をしよう
嚥下障害の治療をするには、歯科や耳鼻咽喉科、嚥下障害専門外来などの医療施設を受診する必要があります。治療内容は、リハビリや手術で本来の機能を取り戻していく方法が中心です。
食べ物を使わないリハビリ運動は自宅でトレーニングが可能なものもあります。早めに医療機関を受診し、医師の指示を元にリハビリ運動を日常的に行うことで、家族も回復へ向けて対処していくことができます。
自宅でのリハビリは食べ物を使わない間接訓練を中心に行っていきます。
例えば、手や器具を使って口、舌、頬を動かすトレーニングでは、口周りの動きをスムーズにし、咀嚼機能を回復させる効果があるとされています。また、合わせて深呼吸やストレッチ、肩や首を回すなどの体操など上半身をリラックスさせ体の力を抜く訓練も行われます。それによって体に力が入りうまく機能しなかった嚥下機能や器官を正常に戻していきます。
その他、食事の前に発声練習をするなど口周りの動きを円滑にしてから、食事をすることもむせる症状などの緩和に役立ちます。
医師のアドバイスを元に適切なリハビリを行い対処していきましょう。
医療機関で行われるリハビリには様々な訓練方法があります。
例えば、凍らせた綿棒に水をつけ、口腔内や喉を刺激するアイスマッサージやバルーンカテーテルを使用して喉や食道を広げるバルーン法など医療技術によるものや、筋肉を刺激するため顎から下のマッサージを行い飲み込む力の回復を試みたり、実際に食べ物を使用してトレーニングが行われます。
処置は高齢者の症状によって異なります。リハビリで回復を試みる場合が大半ですが、場合によっては手術が必要な方もいます。手術は迅速な回復が期待できますが、発声機能が失われるリスクも伴います。高齢者の早期回復ばかりに期待することのないよう、慎重な判断や適切な対処をしていくようにしましょう。
おわりに
高齢者がむせるということは、単純なことではなく様々な問題を抱えています。迅速に医師に相談し細かい健康状態や対処方法を訪ねるなど、高齢者抱えている問題を深く理解し向き合っていきましょう。
ポイントは以下の4つです。
高齢者がむせる原因を知ることで対処方法を明確にする
高齢者がむせる危険性を把握し、食べやすい食材を選ぶなどの対処をする
高齢者がむせる症状以外の初期症状を把握し、嚥下障害を早期に対処する
高齢者のむせる症状が重症化しないよう医療機関を受診して対処する
高齢者の健康状態と向き合いながら真摯に食事をサポートしていくのは、簡単なことではありません。サポートする側に負担がかかりすぎないよう、家族と相談し分担をしたり、医療機関や福祉サービスの力を借りたりとバランスを保つようにすることも重要です。
高齢者にとって嚥下障害や誤嚥性肺炎は、発生しやすい問題です。重症化し症状が複雑になってしまう前に、対処していくようにしましょう。また、むせるなどの症状に限らず、日常的な口腔ケアも嚥下障害を予防していく上で大切です。高齢者本人も丁寧な歯磨きを習慣づけるなど、自立して健康管理をしていけるようになるとなお良いでしょう。